足の浮腫は生活(QOL)にどのような影響を与えるのか?
足のむくみ(浮腫)は誰でも起こり得ることです。しかし、高齢者や障害がある方、特に日常生活の中で足を使う機会が少ない方は足がむくみやすい傾向にあります。
では、足が浮腫むと、生活にどのような影響があるのでしょうか?
足の浮腫とは
浮腫とは、皮下組織(皮膚の下部)に必要以上に水がたまった状態のことを言います。浮腫が足に現れやすいのは、水分が重力の関係で身体の下の方へたまりやすくなるからです。
むくんでいる足は、指で押してもすぐには戻らないことが特徴的です。人類が二足歩行を始めた瞬間から重力に逆らって足の血液を心臓にもどすのに大きな負担を強いられるようにになり、私たちはみな、足のむくみとは無関係でいられなくなりました。
浮腫ができる原因
浮腫ができる原因は本当に様々ありますが、以下に列挙しています。急激に浮腫が進行している場合、なんらかの疾患が隠れている可能性もあるので、病院を受診することが大切です。
- 心不全
心臓の働きが弱ると血管内に余分な水分が溜まってきます。その水分が血管の外にしみだしてむくみの原因となります。 - 腎不全
腎臓の働きが低下して余分な水分や塩分を排泄できなくなることにより、心不全と同様に余分な水分が溜まってきます。 - 低栄養
何らかの原因で食事が十分にとれない場合、代謝がうまく行えず、浮腫がみられることがあります。 - 薬剤性
薬の中にはその副作用でむくみが生じるものがあります。代表的なものは副腎皮質ステロイド、非ステロイド抗炎症剤、カルシウム拮抗剤(高血圧の薬)、ピオグリタゾン(高糖尿病薬)などです。 - 下肢静脈瘤
下肢静脈瘤は足の静脈がこぶのように膨らむ病気で、見ればすぐにわかります。静脈の弁の働きが壊れて血液が逆流することが原因です。足がだるいとか重い、つりやすいなどの症状があります。 - 深部静脈血栓症
足の静脈が血栓でつまってしまう病気です。血栓が足の静脈から飛んで肺の血管につまる肺塞栓症(エコノミー症候群とよばれています)の原因となる可能性があり、その場合命にかかわることもあります。 - リンパ浮腫
リンパの流れが悪く足が腫れる病気です。生まれつきリンパ管の発達が悪い1次性リンパ浮腫と手術や放射線治療によりおこる2次性リンパ浮腫があります。 - 蜂窩織炎
細菌が足に入ることにより炎症を起こし腫れる病気です。けがや巻き爪、水虫などから菌が入って発症することがあります。全身状態の悪化により、免疫が低下すると起こりやすくなります。 - 皮膚病変
湿疹や皮膚炎、虫刺され、しもやけなどの皮膚の疾患に伴い足が腫れる場合もあります。 - 腫瘍
腹部や骨盤内の腫瘍により、静脈やリンパの流れが妨げられ、足が腫れることもあります。通常片方の足が腫れます。 - 筋内血種
急に痛みを伴って足が腫れた場合、筋肉内に出血している可能性があります。 - 体位によるもの
横になって寝ることができず、24時間座っているような場合は健康な方でも足が浮腫みます。
これらとは別に、明らかな原因を特定できない足のむくみも多くみられます。特に高齢の方では日中の不活動や同じ姿勢を続けていることが多く、むくみやすくなります。
あまり歩かずに日中座ったままで生活をしているご高齢の方には、足のむくみはよく見られます。また高齢の方ではなくても、体重が増えたり、塩分や水分を取りすぎたりするだけでも浮腫は発生します。
生活の質(QOL)とは
生活の質は、QOLと表現されます。QOLは、「Quality Of Life:クオリティオブライフ」を省略した言葉であり、日本語では「生命や生活の質」と訳されます。
1970年代ごろから日本にも物が溢れ始め、物質的に生活が豊かになった結果、物事を評価する基準が、物の多さや量ではなく、「物の質の良さ」に注目が集まるようになったことがきっかけで提唱され始めた言葉です。
高齢化の進む日本では、「単に生きるだけではなく充実した人生を過ごすこと」や「自分らしさを保って暮らすこと」という意味で、主に、医療介護分野で使われます。
WHO(世界保健機構)では1994年にQOLについて「個人が接している文化や価値観で、目標・基準・関心などに関係する自分自身の人生に対しての認識」としています。少し分かりにくいかもしれませんが、QOLは、人生における幸福感・充実感・満足感といった価値観を基準にして判定します。
基準や目標、関心が明確にあり、自分ができる程よい範囲でそれに関わることができ、そのときに幸福感や充実感・満足感を感じることができる人生がQOLが高い人生だと言えるでしょう。
QOLの構成要素
QOLは、さまざまな要因が組み合わさり構成されています。そのなかでも、おもに次の3つの質が関連しているとされています。
- 心身ともに健康であるか
- 自立した生活ができるか
- 社会と関わりを持っているか
個人の価値観は、それまでに触れてきた文化や教育、生まれ育った国、経済状況などによって異なります。そのほかに、健康に関する知識によっても価値観は大きく変化するでしょう。このような環境が個人のQOLに大きく関係しているとされています。
QOLの評価基準
WHOは、QOLの評価基準として、国際間比較が可能な「WHO/QOL」と呼ばれるQOL基本調査票を開発しています。
この基本調査票はQOLの構成領域を、
- 身体的領域
- 心理的領域
- 自立のレベル
- 社会的関係
- 生活環境
- 精神性/宗教/信念
の6領域に設定、各領域をさらに細分化して質問を設け、その回答を点数として集計する評価法です。
例えば簡易版の「WHO QOL26」は、「身体的領域」「心理的領域」「社会的関係」「環境領域」の26の質問について、受検者自身が過去2週間の生活を振り返って、「どのように感じたか」「どのくらい満足したか」を5段階評価で回答し、採点します。
病気の有無を測るのではなく、受検者の主観的幸福感、つまり生活の質を測定します。点数が高ければ質が高く、低ければ低いということになります。
足の浮腫による生活への影響
では、足が浮腫んでしまうと、生活の質(QOL)にどのような影響があるのでしょうか。
①歩行の能力の低下(疲れやすい)
QOLを上述の項目・要素で検討すると、まず、足に浮腫があることで歩行能力が低下することが考えられます。
ある研究*1によると、足の浮腫があることで、足に1.0~2.0kgの重錘を付加した状態と同じ状態になり、歩行後の疲労感が増大することが分かっています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/cjpt/2006/0/2006_0_D0189/_article/-char/ja/
②体力の低下を招く
浮腫に限らずですが、何らかの心身の異常により疲労感が強い状態であると、
- 外出機会の減少
- 意欲・気力の低下
があり、長期的にみると体力が低下していく傾向にあります。
③日々の充実感や満足感の低下
QOLの項目でも挙げられていますが、人は誰かと交流することで満足感を得たり、なにかしらの成果を得るものです。そして、人と交流するためには、自分で目的地まで移動することが必須になってきます。
しかし、浮腫があることで足が重く、歩くのがおっくうで、疲れやすい状態では移動に支障を来たし、人との交流が希薄になったり、社会とのつながりを無くしてしまうことがあります。健康な足の状態でいることは、日々の充実に欠かせないものなのです。
まとめ
誰にでも起こる足の浮腫ですが、浮腫は生活の質を低下させる可能性があります。足の重みのために歩行能力が低下し、疲れやすいため長距離を歩くことが困難になります。
長期的にみると、活動性の低下による身体不調が出現し、体力の低下を招く恐れがあります。また、人との関わりも少なくなる傾向にあります。浮腫はだれにでも起こりえますが、放っておかずに適切に処置をし、健康的な生活を送れる状態を保ちましょう。