理学療法士がリハビリの現場で直面する「フットフレイル」とは?
「フレイル」とは、もともと「か弱さ」や「こわれやすさ」を意味する言葉ですが、日本老年医学会が2014年に医学的な「Frailty(虚弱)」という概念を提唱しました。医学や介護のフィールドでいわれる「フレイル」とは、健康な状態と要介護状態の中間に位置し、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態のことを指します。
「フレイル」は適切な治療や予防を行うことで要介護状態に進まずに健康的に過ごせる状態でもあるため、予防や健康習慣の確立が非常に重要になります。
フレイルとは?
フレイルは、
- 筋力低下などの身体的要素
- 認知症やうつなど精神的・心理的要素
- 独居や経済的困窮などの社会的要素
の3つの要素で構成されます。フレイルと合わせてよく聞かれる”ロコモ”はこのうち筋力低下などの身体的要素のみを指し、より狭義の体力低下状態を指します。
フレイルの進行を予防するためには、これらの3つの側面から総合的に対応する必要があります。
フレイルの特徴的な状態5つ
老年医学の分野では、次に挙げる5つの徴候のうち3つ以上そろうと「フレイル」と評価します。1つか2つに該当する場合は「プレフレイル(フレイルの前段階)」、いずれも該当しない場合は「ロバスト(健常者、頑強者)」呼びます。
各徴候と関連する代表的な病気や状態について説明します。
①歩行速度の低下
フレイル高齢者の代表的な特徴は、歩くのがゆっくりであることです。歩行速度の低下は、加齢に伴う運動器の障害や心肺機能の低下、脳や神経の病気、貧血や疾患などが原因となっていることがあります。また、筋力の低下や活動能力の低下を伴い、移動能力が全般的に障害されていることもあります。歩行速度の低下は、「老いの状態」を総合的に反映する目安になります。
②疲れやすい
からだが疲れやすくなったり、何かを行うことがおっくうになったりすることも、フレイル高齢者の特徴です。心身の病気、あるいは心肺機能の低下で体力や気力の衰えが生じます。服用している薬が原因となることもあります。
近年、多剤服用(ポリファーマシー)という言葉が問題になっています。持病が複数あり、多剤服用がやむを得ないこともあります。薬の作用によってはふらつきや転倒の危険性が高くなる場合もあります。かかりつけ医とよく相談することをお勧めします。
③活動性の低下
意欲の低下や抑うつ、移動能力の低下に関連する病気や怪我が原因で活動性が低下することがよくあります。また、社会的な環境も活動性に大きな影響を与えます。たとえば流行病の蔓延予防のため外出自粛をせざるを得ない環境であったり、引っ越しや退職を契機に社会的な付き合いが減少し、活動性が低下することもあります。人との付き合いを面倒に感じ、屋内外問わず活動する機会が減っているときは注意が必要です。
④筋力の低下
筋力の低下は、加齢に伴って起きる生物学的な変化です。加齢の影響以外にも、筋肉を使わないことによる衰え、病気や薬の影響による衰え、栄養不足による衰えがあります。近年、サルコペニアという用語が使われますが、これは、筋力や筋肉量の低下を特徴とする状態を表し、フレイルの中心的な特徴とされています。
⑤体重減少
意図しない体重の減少は、高齢者にとって注意すべき兆候です。高齢者の体重減少は、消耗性疾患や悪性腫瘍などが潜在していることもあるため注意が必要です。いつもと同じ生活をしているのに、短期間で急激に体重が減少する場合は、心や体に隠れた病気がないか調べる必要があります。
これらの5つの徴候は、互いに関連し合って「フレイルサイクル」という悪循環を形成し、健康寿命を縮めてしまいます。そのような悪循環に陥らないためにも、早期からこれらの徴候に注意することが重要です。
フレイル予防と対策
年齢を重ねると、低栄養や痩せすぎの人の方が、標準体型や肥満の人に比べて要介護の状態になりやすいことがわかっています。逆に、脂肪が多すぎる状態、つまり肥満の人も要注意です。「肥満」と「筋力の低下」は一見真逆のようですが、同時に起こります。肥満の人は、生活習慣病とフレイルのどちらにも注意する必要があります。
40歳頃から筋力が低下していき、同時に活動量も低下し始めます。早めにフレイル対策を行っていくことで、健康寿命を長く保つ事ができます。
フレイル予防のためには、大きく4つのことに着目します。
- 心肺機能、筋力維持・向上
- 低栄養予防
- 口と歯の健康
- 社会的交流
です。
これらはお互いに関係し合っていて、どこかでバランスが崩れると、フレイルが進みやすくなってしまいます。さらに、「こころの健康」や「認知症予防」にも意識を向けることで、より介護予防の取り組みをすすめることができます。
心肺機能・筋力向上維持
心配機能 筋力 向上 維持のためには 定期的な運動習慣を確立することが何よりも重要です。 最低、週に2,3回は30分以上のウォーキングをすることを心がけましょう 。
ウォーキングやジョギングで心肺機能を維持することはできますが、筋力向上には負荷不足です。合わせて、筋力維持のためのトレーニングをすることも重要です。大腿四頭筋(ふともも)や殿筋(おしりの筋肉)は人体の中で最も大きな筋肉であり、歩行能力にも大きく関係しています。スクワットをすることで足の筋肉を一気にまんべんなく鍛えられるので、ウォーキングやジョギングの合間に行いましょう。(その場でおしりを突き出してしゃがむだけ!の簡単な運動です。)
また、最近の研究では、運動(主に有酸素運動)をすることで脳の認知機能や記憶機能が向上することが明らかになっています。仕事をバリバリ頑張りたいビジネスマンも運動を積極的に行い、脳を健康に保つことで思考力や判断力、意志力を維持・向上することができます。また運動をすると、アドレナリンなどの各種の身体に良い効果があるホルモンが分泌され、「やる気」にも大きくポジティブな影響を与える事がわかっています。さらに、認知症やガンの予防効果が高いことも示唆されています。
「医学の父」と呼ばれたヒポクラテスが「運動は最高の薬である」と言っていたそうですが、まさしくその通りです。
運動を行うことで、肥満や筋力低下などの身体的な問題がクリアできるだけではなく、やる気が出ない、頭が回らない、覚えられない、人と付き合うのがおっくうなどの心理的・社会的・精神的な問題も改善に向かう可能が高いです。
「やらないと大損している」と言ってもよいほど、人生で最も重要なことが「運動」です。ぜひ「身体を動かすことは、実は楽しい」という事実に気付いて頂き、人生に「健康的に動物として動く本能的な喜び」を取り入れていきましょう。
低栄養状態
運動を始めても栄養が不足していれば、運動が逆効果になってしまいます。エネルギーが不足した状態で運動をすると、身体は筋肉を分解してタンパク質を生成しようとするため、より消耗してしまうだけです。食事をしっかりと取り、筋肉やホルモンを作る栄養素を十分蓄えておく必要があります。
タンパク質や食物繊維、各種ビタミンを積極的に摂るようにしましょう。特に、現代で食材をスーパーで買って調理して食べると、炭水化物と糖類が過剰になり、食物繊維とタンパク質が不足する傾向にあります。(美味しいものや味の濃いものは、大抵炭水化物と糖が多く含まれています。)
意識的に、炭水化物と糖類を減らし、その分、食物繊維とタンパク質を多めに摂ることが重要です。
しかし、高齢になると食が細くなり、肉や魚、野菜なども食べる気がしないこともあるでしょう。動物は食物の消化吸収に相当のエネルギーと時間を使うので、体力が弱るとそれができなくなります。つまり「食欲がない、食べれない」ということになります。人間だけではなく、自然界の動物はみな弱ると食べなくなります。それは、消化吸収に充てていた膨大なエネルギーを怪我や病気、身体の修復に使うためです。
人間も同じで、無理に食べても自然の摂理に反し、あまり意味がありません。その場合は、手軽に栄養分を補助できるサプリやプロテインなどで足りない栄養を補うことも有効です。
「運動と栄養補給(特にタンパク質)は必ずセットで行う」これだけは覚えておいてください。身体が強くなってくると、また食欲が湧いて、しっかりと食べることができるようになります。
フットフレイル
フレイルに関して、「フットフレイル」という言葉があります。これは、足の機能が落ちることで歩行能力が低下し、やがてフレイル状態になっていくという考え方です。
加齢に伴い、以下の順番でフレイルが進行していきます。
第一の階段:足部に問題が出てくる。
第二の段階:歩行が困難になる。
第三の階段:自分でトイレに行けなくなり、排泄に他人の介助が必要になる。
第四の階段:自分で食べることが出来なくなる
まず、第一の段階、つまり「足の状態を維持すること」でこれらの望まない状態を避けることができます。
老化にともなう足部のトラブルとは、
- 爪のトラブル(巻き爪、肥厚爪、爪水虫等)
- 皮膚のトラブル(乾燥、タコ、ウオノメ)
- むくみ
- 筋力の低下
- 血流の低下
- 足底部のアーチの崩れ、外反母趾
- 足部の可動域の低下
などがあります。
フットフレイル予防は、毎日歩き続けることが大切です。歩くたびに痛みを伴ったり、疲れやすく外出自体が億劫になる前に、足の異常を放置せず早めに改善しましょう。
まとめ
「フレイル」とは、健康な状態と要介護状態の中間に位置し、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態のことを指します。
フレイルは、筋力低下などの身体的要素、認知症やうつなど精神的・心理的要素、独居や経済的困窮などの社会的要素の3つの要素で構成されます。予防するためには、体力維持のための運動、栄養状態の改善、口と歯の健康、社会的交流が重要になります。
このうちの1つだけでも疎かになると、フレイルに陥りやすくなるため、総合的に人生を整えていく必要があります。何歳でも「今日が一番私達にとって若い日」です。まずは1つずつ、簡単なことでよいので始めてみましょう。また、介護状態への入口であるフットフレイルを防ぐために、足の異常に対しては早めにケアを行うようにしましょう。