理学療法士視点!閉塞性動脈硬化症(PAD)とは?フットケア方法について

閉塞性動脈硬化症は、足への血流が悪くなる疾患です。この疾患がある方にとって、フットケアは非常に重要な役割を持ちます。なぜフットケアが大切なのか、その理由を詳しくご説明していきます。

閉塞性動脈硬化症(PAD)とは?

閉塞性動脈硬化症(Peripheral Artery Disease,:PAD)は、主に足や手の動脈が狭窄(狭くなる)または閉塞する(詰まる)疾患です。これは、血管内にコレステロールや老廃物が蓄積してプラーク(血管の壁にコレステロールや脂肪、カルシウムなどが混ざってできる塊)を形成し、血流が妨げられることが原因です。PADは、特に高齢者や生活習慣病を持つ人々に多く見られ、適切な対策を取らないと重篤な合併症を引き起こす可能性があります。

症状

閉塞性動脈硬化症(PAD)の主な症状は以下の通りです。

間欠性跛行(かんけつせいはこう)

歩行中にふくらはぎや太もも、臀部に痛みや痙攣を感じ、休むと痛みが和らぐ。これが初期症状として最も一般的です。

下肢の冷感やしびれ

血流不足により足が冷たく感じたり、しびれが生じます。

皮膚の変化

足や指の皮膚が薄く、青白くなりやすい。重症化すると潰瘍や壊疽(えそ)が発生します。

脈拍の低下

足の動脈で脈が感じられにくくなります。

閉塞性動脈硬化症(PAD)の原因

閉塞性動脈硬化症(PAD)の主な原因は、動脈硬化です。動脈硬化を引き起こす要因には次のようなものがあります。

喫煙

喫煙は血管を収縮させ、血管内のプラーク形成を促進します。

糖尿病

高血糖は血管を傷つけ、動脈硬化を進行させます。

高血圧

血管に過度の負担をかけ、損傷を引き起こします。

高コレステロール血症

LDLコレステロールの増加が動脈壁にプラークを形成し、閉塞性動脈硬化症(PAD)が発症しやすくなります。

運動不足

運動不足になると、血液循環が悪化するだけではなく、血管そのものの柔軟性も低下し、血圧が高くなる傾向があり、動脈硬化リスクを高めます。

閉塞性動脈硬化症(PAD)におけるフットケアの重要性

閉塞性動脈硬化症(PAD)は、主に下肢の血流が悪化することでさまざまな症状を引き起こします。特に足や指先は血液供給が不足しやすく、適切なケアを行わないと深刻な合併症につながるリスクがあります。フットケアを行うことで合併症や重症化を予防し、足の健康を守るために非常に重要です。以下にさらにフットケアの必要性を詳しく解説します。

潰瘍や壊疽(えそ)の予防

閉塞性動脈硬化症(PAD)が進行すると、傷が治りにくくなり、潰瘍や壊疽が発生する可能性があります。これがさらに進むと、最悪の場合、足の切断に至ることもあります。フットケアは足の異常を早期に発見し、こうした重篤な事態を防ぐ役割を果たします。

感染リスクの低減

血流不足により足の免疫力が低下しているため、小さな傷や水ぶくれでも感染しやすくなります。感染が進行すると広範囲に及び、治療が困難になる場合があります。フットケアを通じて足を清潔に保ち、傷や感染の早期対応を行うことが重要です。

血行促進と症状の改善

軽いマッサージや温浴などを行うフットケアは、血液循環を促進し、足への血流を改善します。これにより、冷えやしびれの症状が軽減し、間欠性跛行(歩行時の痛みや痺れ)の症状を軽減することが期待されます。

足の変形や皮膚トラブルの予防

閉塞性動脈硬化症(PAD)の方は足の変形や皮膚の薄化が見られることがあります。例えば、たこや巻き爪が悪化すると、歩行が困難になるだけでなく、足全体の健康に影響を及ぼします。フットケアによりこれらの問題を防ぐことが可能です。

異変の早期発見

毎日のフットケアは足の状態を観察する絶好の機会です。しびれ、冷感、変色、傷、腫れなどの異常を早期に発見できれば、適切な治療を早く開始できます。特に糖尿病を併発している場合、さらに重要性は増してきます。

QOL(生活の質)の向上

足の健康は日常生活に大きく影響します。痛みや不快感が軽減されると、移動や活動がしやすくなり、生活の質(QOL)の向上につながります。特に閉塞性動脈硬化症(PAD)の方にとって、フットケアは健康な日常を支える重要な柱になります。

閉塞性動脈硬化症(PAD)の具体的な観察(フットケア)方法

以下では、介護士や看護師がフットケアを行うときにチェックすべき足の状態を具体的に解説します。

皮膚の色の変化

PADでは血流障害により足の皮膚の色が変化します。以下のような症状が見られる場合があります。

  • 蒼白:足を高く上げたときに血流が低下する

  • 暗赤色:足を下げた際に血液がうっ血

  • チアノーゼ:末梢の酸素供給が不足している

  • 光沢を伴う皮膚の薄化:血流低下が進行している

これらの変化を定期的に観察し、記録しておくことが重要です。

皮膚の温度

PAD患者では、血流が悪化すると皮膚温が低下することがあります。

  • 冷感:血液の供給が不十分である場合に典型的です。

  • 左右差:一方の足が著しく冷たい場合、重度の血流障害を示唆します。

温度を触診で確認し、必要であれば測定器を用いて数値化すると、より正確なデータが得られます。

潰瘍や傷の有無

PAD患者では血流が低下するため、傷や潰瘍が治癒しにくくなります。潰瘍や傷の有無、大きさ、深さ、周囲の皮膚の状態を確認し、感染や壊疽の兆候がないか注意深く観察します。足の裏、指の間、かかとなど見落としやすい部位もチェックします。潰瘍がある場合は無菌的な処置が必要になります。感染が疑われる場合は速やかに医師などへ報告します。

爪の状態

血流不足や栄養障害は爪にも影響を与えます。

  • 爪が厚く硬くなる:栄養不足の可能性あり。

  • 変色:黄色や白濁は感染の可能性あり。

爪のケアが不十分だと感染のリスクが高まるため、適切な指導を行うことが大切です。

脈拍の触知

足の血流を確認するため、足背動脈や後脛骨動脈の脈拍を触診します。触知できない場合は、動脈閉塞や高度な血流不足の可能性があるため、迅速な対応が必要です。

疼痛の有無

PADでは、血流障害に伴い足の痛みが現れます。進行性のPADで見られる症状として安静時痛があり、特に夜間に悪化しやすいです。訴える痛みの頻度、強さ、発生する状況(歩行時、安静時)を詳しく記録します。

浮腫(むくみ)の有無

PAD自体で浮腫はあまり見られませんが、他の疾患との併発を考慮します。指で押したときのへこみ具合を観察します。片側性の浮腫がある場合は、深部静脈血栓症(DVT)などの可能性もあります。

皮膚の乾燥やひび割れ

血流不足は皮膚の潤いに影響を及ぼします。乾燥肌の場合、皮脂分泌が減少し、ひび割れやすくなります。ひび割れ部分から細菌が侵入する可能性があるため、保湿剤を使うことが大切です。

感覚異常

PADが進行すると、神経が血流不足により影響を受け、感覚が鈍くなることがあります。末梢神経の血流不足の兆候として、痺れや冷感がある場合があります。進行していくと感覚が著しく低下し、壊疽が進行しても痛みを感じない場合もあります。

予防と生活習慣の改善

閉塞性動脈硬化症(PAD)を予防し、進行を抑えるためには以下の点に留意します。

禁煙

動脈硬化の進行を大幅に遅らせます。

バランスの取れた食事

野菜や果物を多く摂り、飽和脂肪やトランス脂肪を避けます。

体重管理

肥満は動脈硬化のリスクを増加させます。食生活や運動習慣を常に見直し、適切な体重の範囲に収まるように体重のコントロールが重要です。

ストレス管理

過度のストレスは血圧や血糖値に悪影響を及ぼします。普段からストレスを減らす工夫をしたり、ストレス発散の方法を自分なりに見つけておくことが大切です。

まとめ

閉塞性動脈硬化症は適切な対策を取れば予防・進行抑制が可能な疾患です。日々の生活習慣を見直し、フットケアを徹底することで健康な足を保つことができます。

閉塞性動脈硬化症(PAD)のおけるフットケアの具体的な観察方法は、

  1. 皮膚の色の変化
  2. 皮膚の温度
  3. 潰瘍や傷の有無
  4. 爪の状態
  5. 脈拍の触知
  6. 疼痛の有無
  7. 浮腫(むくみ)の有無
  8. 皮膚の乾燥(ひび割れ)、感覚異常

に注意して観察し、異常があった場合は速やかに専門職に連携をとることが大切です。

閉塞性動脈硬化症(PAD)は、主に下肢の血流が悪化することでさまざまな症状を引き起こします。特に足や指先は血液供給が不足しやすく、適切なケアを行わないと深刻な合併症につながるリスクがあります。フットケアを行うことで合併症や重症化を予防し、足の健康を守り、末長く健康的な生活を維持することができます。ぜひ参考にしてみてくださいね。