理学療法士が教える、歳を重ねても「元気に歩ける」正しい歩き方
人間の体の重さは平均約70kgもあります。70kgというと、中型の冷蔵庫くらいの重さです。想像していただけるとわかりますが、冷蔵庫を抱えて何キロ・何時間も歩けると思いませんよね。しかし、人間は、歩行という動作で冷蔵庫ほどもある重さの”体”を毎日、驚くほどの長距離・長時間、それほど疲れもせずに運んでいます。
これには理由があり、実は、私たちが普段何気なく行なっている「歩く」という動作の中に、疲れずに効率よく体を運ぶために多くのメカニズムが無意識に働いているのです。
歩行は、左右の足を交互に前に出して体を前に進める動作です。こういうと単純なようですが、実はたくさんの筋肉や関節、神経が協調して働くからこそ可能となる動作です。専門的な用語を避けながら、歩行のメカニズムを詳しく説明します。これらを知っておくことで、歩くことによる健康効果をより実感しやすくなるのではないでしょうか。
歩行のメカニズム
まず、歩行は、動作としては、立脚相(りっきゃくそう)と遊脚相(ゆうきゃくそう)から成ります。
1. 立脚相(片足で体を支える時期)
この時期は、足が地面について体を支えている期間です。歩行全体の約60%を占めます。
- 踵(かかと)から着地する: 最初に踵が地面につきます。
- 体を安定させる: 筋肉が働き、体がグラつかないように安定させます。このとき、足の裏全体で地面からの衝撃を吸収します。
- 体を前に運ぶ: 体重を足全体に乗せながら、かかとからつま先へと重心を移動させ、体を前に押し出します。
人間が立っている時の重心の位置は、骨盤(おへそのやや下)にあります。この骨盤お前に運ぶことで歩く動作が行われます。
2. 遊脚相(足を前に振り出す時期)
この時期は、地面から足を離して前に振り出す期間で、歩行全体の約40%を占めます。
- 地面から足を離す: つま先が地面から離れ、足が宙に浮きます。
- 足を前に運ぶ: 股関節や膝関節が協調して動き、足を振り子のように前に運びます。このとき、足を地面に引っ掛けないように、つま先をほんの少し上に持ち上げます。
- 次の着地に備える: 足が前に出たところで、踵から地面につく準備をします。
正しい歩き方のポイント
正しい歩き方(人体に備わる機能を上手く使った、効率の良い歩き方)をするために大切なポイントを紹介します。
立脚相
踵から地面に付く
踵から地面に付くことで、落下してくる体重を、転がるように前方への推進力へ変換させます。高齢者の方によくある”すり足”では、踵から接地せず、足裏全体で接地するため、転がる力(推進力)を利用できず、歩行効率が悪くなってしまいます。結果的に疲れやすく、長距離を歩くと腰や膝が痛くなったりしてしまうことがあります。
膝を曲げない。
踵が地面についた後、膝が曲がっていると推進力を前に効率的に変換することができず、歩行効率は悪くなってしまいます。これは”倒立振り子モデル”といわれ、足部を軸にして膝を伸ばした状態で骨盤を前に振り子のように押し出すメカニズムが阻害されるためです。高齢女性の多くが発症する、変形性膝関節症は膝関節を変形させてしまい、完全に膝を伸ばしたままで歩くことが難しくなることがあります。この場合、歩き方はすり足になり、歩行効率は悪くなってしまいます。
骨盤を水平に保つ(骨盤をグラグラさせない)
立脚相でお尻の筋肉(中臀筋)が弱いなどの理由で、反対側の足が地面から浮いているときに骨盤を水平に保てず、崩れてしまうことがあります。歩いているときにお尻を後方から見ると、グラグラと揺れています。この状態では、お尻で骨盤を支えることができておらず、効率的に骨盤(重心)を前に運ぶことができなくなってしまいます。
遊脚相
腰を曲げない
一度、立った状態で腰を曲げて足を前に出してみてください。大きく足を出すことが物理的にできないはずです。腰を曲げると、それだけで足を前に振り出すことが難しくなります。結果、踵から接地することができず、すり足のように足裏全体で地面に接地する歩き方になります。歩行効率は下がり、疲れやすく、体の他の部位(腰や膝、足関節など)への負担が増えます。脊柱管狭窄症、脊椎の圧迫骨折など、腰や脊椎に何らかの障がいがある場合、腰が曲がってしまうことが多いです。
正しい歩き方を末長く続けるために
結論からいうと、
- 姿勢をまっすぐ伸ばし、膝を伸ばして踵から接地すること。
- 歩行中お尻にも力を入れ、骨盤がぶれないように意識すること。
が大切になります。
正しい姿勢は、頭から紐で真上に引っ張らられている姿勢だと言われています。イメージが難しければ、壁に骨盤と踵、後頭部をくっ付けて立ってみてください。この姿勢がまっすぐな綺麗な姿勢です。
特によくあるのは、頭が前に出ている姿勢です。壁に持たれると、踵と骨盤は壁に付くけど、後頭部が付きにくい場合です。この場合、顎を引き、特に背中の胸の裏部分から上をまっすぐに壁に付ける練習をしてみてください。違和感がなくこの立ち方ができるようになると、普段でも正しい姿勢をとることができるようになります。
まとめ
歩行のメカニズムは、人間の体の全身の筋肉や神経、関節がうまく連携することで効率よく発揮されるようになっています。足首の関節や股関節、腰などに不調があると、すぐに正しい歩行動作が円滑に行えなくなってしまい、歩くことに大小の支障が出てしまいます。年を重ねても健康的に歩ける体を維持するためには、そういった視点を持ち、日々自身の体のメンテナンスを怠らないようにしていくことが大切です。
足腰の筋力トレーニングも重要ですが、いくらトレーニングをしても、他の生活習慣が整っていないと効果は限定的なものになります。よくいわれることですが、適度な運動習慣を持ちつつ、栄養のあるものを適度に食べ、しっかりと睡眠をとること、ストレスを溜めすぎないようにすること、それら生活全般のことを自分なりの工夫を加えて楽しみつつ、ライフワークにしていくことが最も重要です。