高齢者の室内履き、スリッパで大丈夫?転倒を減らす足元・床・動線の確認
「家の中では昔からスリッパ。今も歩けているから、このままで大丈夫」と考えていても、加齢、体調、薬、視力、足の痛み、床の状態が変わると、昨日まで問題なかった室内履きが合わなくなることがあります。結論は、スリッパという名称だけで安全・危険を決めず、脱げにくさ、足への合い方、靴底と床の組み合わせ、歩く動線を一緒に確認することです。かかとが固定されず、足からずれやすいスリッパは、足を上げにくい方やふらつきがある方では慎重に見直します。
この記事で扱うのは、履物、床、照明、整理整頓、足と爪の観察など、家庭で行える転倒予防のための日常確認です。歩行能力の評価、病気の診断、リハビリテーション、治療用装具の選定は医療・介護の専門領域です。急なふらつき、片側の力が入らない、意識や言葉の異常、転倒後の強い痛みなどがあれば、履物を替えて様子を見ず医療機関へ相談してください。
※履物・歩行・相談場面の写真はイメージです。写真だけで特定の室内履きの安全性や、個別の転倒リスクを判断することはできません。
1.高齢者の室内履きは「スリッパだから危険」と一律に決めない

消費者庁は、高齢者の転倒・転落が骨折や頭部外傷などの重大なけがにつながり、介護が必要になる原因にもなり得るとして注意を呼びかけています。2026年9月の注意喚起では、自宅の段差、浴室、コード、立ち上がりなどで起きた事故例が紹介されました。転倒は、履物だけが原因ではなく、身体機能、体調、薬、照明、床、物の配置などが重なって起こります。
そのため、「スリッパをやめれば転ばない」と考えるのも十分ではありません。裸足や靴下でも、床が冷たい、靴下が滑る、足裏に痛みがある場合は歩きにくくなります。反対に、本人の足に合い、ずれにくく、生活環境に適した室内履きなら、足を保護しながら歩ける場合があります。
大切なのは、現在の本人に合っているかを確認することです。数年前に購入した物でも、靴底の摩耗、変形、足のむくみ、筋力、歩き方の変化により、今は合わなくなっているかもしれません。
2.まず見るのは、脱げる・滑る・つまずくの三つ

①脱げる
歩くたびにかかとが浮く、足先で履物をつかむように歩く、階段で履物が残る場合は注意します。スリッパはかかとを覆わない構造が多く、サイズが大きいと足からずれやすくなります。J-STAGEで公開されている小規模研究では、高齢者が、かかとを覆わず固定しない形のスリッパを着用して階段を昇降した際、裸足の場合と比べて下肢の関節の動きが変化しました。対象は高齢者8人であり、家庭内での転倒リスクを直接算出した研究ではありません。研究結果だけで一律に危険と決めず、実際の生活場面で本人の歩き方を確認します。
②滑る
靴底がすり減って平らになっている、床が濡れている、ワックスや洗剤が残っている、靴下と履物の間で足が動く場合があります。消費者庁は、脱げやすい・滑りやすいスリッパ、サンダル、靴下を避け、体に合う物を使うよう案内しています。
③つまずく
つま先が大きく余る、履物の先がめくれる、歩くとパタパタ音がする、床の段差やカーペットへ先端が引っかかる場合は見直します。滑りにくければ必ず安全というわけでもありません。靴底と床の摩擦が強すぎると、足を前へ運ぶときに引っかかることがあります。
3.室内履きを選ぶ7つの確認項目

店舗や通販で「高齢者向け」「介護用」と表示されていても、それだけで本人に合うとは限りません。次の7項目を確認します。
1.長さと幅が合う
つま先が当たらず、余りすぎず、足幅が強く締め付けられないことを確認します。足は左右で大きさが違うことがあるため、両足で試します。
2.かかとが安定する
かかとを覆う形、またはベルトなどで足に固定できる形は、歩行中のずれを減らしやすくなります。ただし、締め付けが強い、皮膚へ食い込む場合は合っていません。
3.つま先が引っかかりにくい
先端が長すぎる物、反りや変形がある物は避けます。厚生労働省の転倒防止資料は職場用安全靴を対象にしたものですが、履物の屈曲性、重さ、重量バランス、つま先部の高さ、靴底と床の摩擦のバランスが歩行に関係することを示しています。家庭用の室内履きを選ぶ際も、単に「滑り止めが強い」だけでなく、足を運びやすいかを確認する視点が役立ちます。
4.靴底が適度に曲がる
硬すぎて足の動きについてこない物、柔らかすぎてねじれる物は、本人にとって歩きにくい場合があります。手で曲げるだけで決めず、平らな安全な場所で歩いて確かめます。
5.重すぎない
重く感じる履物は足を上げにくくし、すり足につながることがあります。「軽量」という表示だけでなく、本人が歩いたときの感覚を確認します。
6.着脱のしやすさと固定の両方がある
着脱しやすくても歩行中に脱げる物は困ります。面ファスナーなどで開口部が広く、履いた後に足へ合わせて留められる形も選択肢です。手指の力や腰を曲げる動作に無理がないかも見ます。
7.清潔を保てる
汗や汚れが残りにくく、洗濯や拭き取りができ、十分に乾燥させられる物を選びます。足白癬などが疑われるときは共用せず、診断と治療について皮膚科へ相談します。
4.立った状態だけでなく、生活動線で試す

履物を試すとき、椅子に座って足を入れただけでは十分ではありません。安全を確保し、家族や専門職が見守れる状況で、日常生活に近い動作を確認します。
- 椅子から立ち上がる
- 数メートル歩く
- 向きを変える
- 敷居をまたぐ
- トイレの入口を通る
- 洗面所で止まる
- いつもの椅子へ座る
階段や浴室など危険が高い場所で、本人だけに試してもらうのは避けます。履物が床へ引っかかる、歩幅が急に小さくなる、足先で床をする、手すりや家具へ頻繁につかまる、息切れや痛みが出る場合は、無理に続けません。
新しい室内履きへ替えた直後は、慣れるまで歩き方が変わる場合があります。最初の数日は、朝・昼・夜で様子を確認します。むくみの程度によってフィット感が変わる方は、時間帯を変えて確認してください。
5.床・段差・コード・敷物を同時に見直す

良い室内履きを選んでも、歩く場所に障害物があれば転倒の危険は残ります。消費者庁は、床に物を置かない、電源コードが動線を横切らないようにする、めくれやすいカーペットへ滑り止めを使う、段差へ手すり・滑り止め・照明・スロープを検討するなどの対策を挙げています。
家の中を「玄関から居間」「寝室からトイレ」「居間から台所」のように、実際に歩く順序で見てみます。
- 床に新聞、袋、洗濯物、電源コードがないか
- カーペットやマットの端が浮いていないか
- 敷居や小さな段差が見えやすいか
- 床が濡れたままになっていないか
- 家具の角や開いた扉が通路へ出ていないか
- 手を添えられる安定した場所があるか
- ペットや小さな家具が急に動線へ入らないか
マットを増やすと滑りを防げる場所もありますが、マットの段差やめくれが新たなつまずきの原因になることもあります。「滑り止めを追加したから終わり」ではなく、設置後にずれ、端の浮き、掃除のしやすさを確認します。
6.夜間のトイレと起き上がりを安全にする
消費者庁は、ベッドやソファから立ち上がるとき、夜間にトイレへ行くときなど、体勢を変える場面でゆっくり慎重に動き、安定した物につかまるよう案内しています。暗い中で急いでスリッパを探し、片足だけ浅く履いたまま歩き出すのは避けます。
夜間は次のように整えます。
- ベッドから手が届く定位置に室内履きをそろえて置く
- 左右を間違えにくい形や目印を使う
- 足元灯を設置し、スイッチまで暗闇を歩かない
- ベッド周りと廊下の物を片づける
- 立ち上がったら数秒待ち、ふらつきがないか確認する
- 必要な手すりや歩行補助具について専門職へ相談する
家具は「つかまれる」と思っても、キャスター付き、軽量、ぐらつきがある物は支えになりません。安易に家具へ頼らず、住環境の専門職や介護担当者へ相談してください。
7.足と爪の変化も歩きやすさに関係する
室内履きが合わない理由が、履物だけではないこともあります。爪が長く靴へ当たる、厚い爪が圧迫される、たこや魚の目が痛む、皮膚に傷がある、足が腫れてサイズが変わると、足をかばう歩き方になる場合があります。
毎日または入浴時に、明るい場所で左右を比べます。
- 爪が指先から大きく伸びていないか
- 爪の色、厚み、形が変わっていないか
- 赤み、腫れ、熱感、傷、水疱がないか
- 靴下や履物の跡が強く残っていないか
- 触れた感覚が普段と違わないか
- 痛みを避ける歩き方になっていないか
厚い爪、巻き込みの強い爪、出血しやすい皮膚、糖尿病や血流・感覚に関わる病気がある方は、自己流で深く切ったり削ったりせず、医療機関へ相談します。足プロ店舗では診断や治療は行わず、日常の足と爪の観察、清潔保持などケアの範囲で対応します。
8.本人を急かさず、家族で確認する方法

転倒を心配するあまり、「危ないからスリッパは禁止」と本人の希望を無視すると、新しい履物を使ってもらえないことがあります。長年の習慣には、足が冷える、着脱しやすい、来客時に必要などの理由があります。
まず本人へ、どの場面で履きにくいかを尋ねます。
- 立ち上がるときに脱げる
- 階段だけ怖い
- 夜は足がむくんできつい
- 指先や爪が当たる
- 素足だと冷たい
- 留め具を操作しにくい
そのうえで、候補を一足に決めつけず、サイズや形の違う物を比較します。本人の同意を得て専門職へ相談し、実際の動作を見てもらうことも有用です。本人が痛い、怖い、違和感があると言ったときは、その感覚を優先します。
9.専門職へ相談したいサイン
次のような変化があるときは、室内履きの購入だけで解決しようとせず、主治医、看護師、理学療法士、作業療法士、ケアマネジャーなどへ相談します。
- 最近転んだ、または転びそうになる回数が増えた
- 急に足が上がりにくくなった
- 立ち上がると強くふらつく
- 歩く速さや歩幅が明らかに変わった
- 新しい薬を開始・変更してから眠気やふらつきがある
- 視力が落ち、段差が見えにくい
- 足の痛み、しびれ、腫れ、傷がある
- 室内履きを自分で着脱できない
- 手すりや住宅改修が必要か迷う
顔のゆがみ、片側の手足に力が入らない、言葉が出にくい、意識がいつもと違うなどの急な症状がある場合は、通常の転倒予防相談ではなく、迷わず119番通報を検討してください。転倒後に頭を打った、立てない、強い痛みがある場合も、本人だけで動かそうとせず、119番または地域の救急相談窓口へ相談してください。
10.今日から使える室内安全チェック表
次の項目を、本人と家族が一緒に確認してください。一つでも「いいえ」があれば、できる所から見直します。
室内履き
- 両足の長さと幅に合っている
- 歩いてもかかとが大きく浮かない
- つま先が余りすぎず、床へ引っかからない
- 靴底がすり減っていない
- 留め具を自分または介助者が適切に扱える
床と動線
- 寝室からトイレまで物やコードがない
- マットやカーペットの端が浮いていない
- 濡れた床をすぐ拭ける
- 小さな段差が見えやすい
- 夜間も足元が見える
体と足
- 最近の転倒・ふらつきを家族が把握している
- 足や爪に強い痛み、傷、腫れがない
- 薬の変更後の変化を主治医等へ伝えている
- 不安な場面を本人が言葉にできる
- 必要時に医療・介護の専門職へ相談できる
11.よくある質問
Q1.スリッパはすべてやめたほうがよいですか?
一律には決められません。ただし、歩行中に脱げる、ずれる、足先が引っかかる、滑る場合は見直します。かかとを固定でき、本人の足と床に合う室内履きも候補にします。
Q2.滑り止めが強いほど安全ですか?
滑りやすい床では役立つ場合がありますが、床との摩擦が強すぎるとつまずく可能性もあります。実際に使う床で、足が前へ運びやすいかを確認してください。
Q3.靴下だけで歩くほうが安全ですか?
床材、靴下の素材、足の感覚や痛みによって異なります。靴下が滑る場合や、足を保護する必要がある場合もあります。本人の状態と住環境を一緒に確認します。
Q4.室内履きは大きめのほうが脱ぎ履きしやすいですか?
大きすぎると足が中で動き、脱げたりつまずいたりすることがあります。着脱のしやすさだけでなく、歩行中にずれないことを確認します。
Q5.足プロ店舗では歩行訓練を受けられますか?
足プロ店舗は医療機関やリハビリテーション施設ではなく、歩行訓練、診断、治療は行いません。足・爪の日常観察や清潔保持、履物を見直す際の一般的な確認をケアの範囲でお手伝いし、必要に応じて医療・介護の専門職への相談をご案内します。
12.まとめ:履物だけでなく「人・足元・住まい」を一緒に見る
高齢者の転倒を減らすには、スリッパだけを悪者にするのではなく、脱げる・滑る・つまずくという三つの視点で、履物と床の組み合わせを確認します。さらに、段差、コード、敷物、照明、夜間動線、足と爪の状態、体調や薬の変化まで一緒に見直します。
新しい室内履きは、座ったままの試着だけで決めず、安全な場所で立ち上がり、歩行、方向転換まで確認してください。転倒やふらつきが増えたときは、履物の買い替えだけで済ませず、医療・介護の専門職へ相談します。
「爪が履物に当たる」「自分では足裏を見にくい」「室内履きの跡が気になる」といった日常の足元の相談は、足プロ店舗の予約はこちらをご利用ください。病気や歩行機能の判断、リハビリテーションが必要な場合は、病院に相談・確認のうえケアを行います。
参考資料(確認日:2026-10-01)
- 消費者庁「Vol.696 高齢者の家庭内での転倒事故に注意しましょう!」(2026-09-11)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/child/project_001/mail/20260911/ - 消費者庁「高齢者の事故を防ぐために」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_055 - 消費者庁「10月10日は『転倒予防の日』、高齢者の転倒事故に注意しましょう!―転倒事故の約半数が住み慣れた自宅で発生しています―」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_040 - 厚生労働省 職場のあんぜんサイト「転倒防止に有効な安全靴」
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/information/tentou1501_25.html - 中野俊哉ほか「高齢者のスリッパ着用が階段昇降動作に及ぼす影響」日本人間工学会大会講演集
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jergo/48spl/0/48spl_330/_pdf - 東京消防庁「寒い時期は救急要請がひっ迫します―『ころぶ』事故に注意!」(2026-01-19更新)
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/fs/honjyo/page_00067.html - 消費者庁「別添 高齢者の事故に関するデータとアドバイス等」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_055/assets/caution_055_211208_0002.pdf - 厚生労働省「こんな時は迷わず119へ」
https://kakarikata.mhlw.go.jp/kakaritsuke/urgency.html
※厚生労働省の資料は職場用安全靴を対象としたもので、家庭用室内履きの製品基準を示すものではありません。本記事では、履物の屈曲性・重さ・つま先・床との摩擦を確認する一般的な視点として参照しています。
※本記事は一般的な情報提供です。個別の診断、治療、歩行評価、リハビリテーション、福祉用具の選定を行うものではありません。
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※足プロのケア・講座は、病気の診断や治療を行う医療行為ではありません。強い痛み、急な腫れ、出血、化膿、発熱などがある場合や、糖尿病・血流障害などで通院中の方は、自己判断せず医療機関へご相談ください。

