認知症高齢者へのフットケアで介護負担は変わる?学会発表の研究結果

認知症のある高齢者に定期的なフットケアを行うと、日々の生活や介護の負担にはどのような変化が現れるのでしょうか。

一般社団法人生きがいづくり研究所は、2022年11月26日に開催された第3回日本フットケア・足病医学会東北地方会学術集会で、「認知症高齢者へのフットケア実施による生活機能の効果検討」を発表しました。会場は山形テルサホールで、現地とオンラインを組み合わせたハイブリッド開催でした。

この記事では、2つの介護施設で実施した3か月間の研究について、対象者、ケア内容、評価方法、結果、そこから考えられることを分かりやすくご紹介します。

なぜ認知症高齢者へのフットケアを研究したのか

高齢者の足のトラブルは、立つ・歩くといった下肢機能や転倒リスクと関係します。一方、認知症高齢者へのフットケアが生活機能や日常の行動に与える影響については、まだ十分な研究がありません。

そこで本研究では、認知症のある高齢者に定期的なフットケアを実施し、認知機能、日常生活動作、生活行動全般にどのような変化が見られるかを検討しました。発表者は、一般社団法人生きがいづくり研究所の武蔵加乃子ほか、介護施設・教育研究機関・フットケア実践者による共同研究チームです。

2施設・39名を対象に3か月間実施

研究対象は、2つの介護施設に入所する認知症高齢者39名で、平均年齢は88.0歳(標準偏差6.4歳)でした。対象者をフットケア実施群20名と非実施群19名に分け、3か月間の変化を確認しました。

項目 内容
対象者 認知症のある介護施設入所者39名
実施群/非実施群 20名/19名
平均年齢 88.0歳(標準偏差6.4歳)
研究期間 3か月間
フットケア 2週間に1回、1人約30分、計8回
ケア内容 足洗い、爪切り、保湿

ケアを担当した施設職員は、研究前にフットケアワーカーによる複数回の研修を受け、基礎的な方法を学びました。単発の施術ではなく、研修を受けた職員が一定の方法で継続した点が、この取り組みの特徴です。

介護施設の職員がフットケアの観察と実技を学ぶ研修イメージ
研究前に行った施設職員研修を表すイメージ画像(AI生成)

認知機能・日常生活動作・生活行動全般を評価

評価には、認知機能を見るMMSE、日常生活動作を見るFIM、認知症高齢者の生活全般を定量的に評価するJ-CPATを用いました。初回と3か月後の値を比較し、対応のあるt検定で変化を検討しました。

J-CPATは、コミュニケーション、身体的問題、自立能力、記憶・見当識、行動、社会的交流、精神的観察、介護ニーズの8項目を0〜100%で表す評価方法です。本発表では、数値が高いほど状態が悪く、低いほど良好であると説明しています。

認知症高齢者の足を観察し評価内容を記録するイメージ
足の状態を観察し、評価と記録を行う場面のイメージ画像(AI生成)

介護ニーズが49.5%から39.1%へ低下

MMSEとFIMでは、実施群・非実施群ともに統計的に有意な変化は確認されませんでした。一方、J-CPATでは、フットケア実施群の介護ニーズが49.5%から39.1%へ低下し、統計的に有意な変化が認められました(p=0.005)。介護ニーズは、その高齢者に必要となる介護量を表す項目です。

また、実施群の記憶・見当識は55.4%から50.0%へ低下し、こちらも有意な変化が認められました(p=0.039)。ただし、今回の結果だけで認知症そのものが改善したと判断することはできません。

主な評価項目 実施群の初回 3か月後 結果
MMSE 15.2点 15.1点 有意差なし(p=0.867)
FIM合計 67.8点 65.8点 有意差なし(p=0.250)
J-CPAT 記憶・見当識 55.4% 50.0% 有意な低下(p=0.039)
J-CPAT 介護ニーズ 49.5% 39.1% 有意な低下(p=0.005)

※J-CPATは数値が低いほど良好。本表のp値は、実施群内の初回と最終評価を比較した値です。

足洗い・爪切り・保湿による高齢者フットケアのイメージ
研究で実施した足洗い・爪切り・保湿を表すイメージ画像(AI生成)

足の状態と1対1の関わり、両方に目を向ける

発表では、足部写真の比較から、対象者2例でむくみの軽減が見られたことも紹介しました。ケア後には多くの対象者から「気持ちよかった」との言葉が聞かれたと、発表者ノートに記録されています。

足洗い、爪切り、保湿によって足の爪やむくみ、循環状態が整うことは、立位や移動を支える可能性があります。また、職員が1人の利用者と約30分間、1対1で丁寧に関わる時間そのものが、安心感や日常の行動へ影響した可能性も考えられます。

ただし、これらは研究結果から考えられる仮説です。身体へのケアと、人との関わりによる心理的な効果を分けて測定した研究ではないため、どの要素が変化に寄与したかは今後さらに検討する必要があります。

「効果が証明された」と断定しない理由

本研究は2施設・39名、3か月間の取り組みです。認知症の症状には大きな個人差があり、心理的な安心感を客観的に評価することにも難しさがあります。また、発表資料では対象者を無作為に割り付けたとの記載はありません。

そのため、「フットケアをすれば認知症が改善する」「必ず介護負担が減る」と断定することはできません。今回示されたのは、定期的なフットケアが認知症高齢者の介護量軽減につながる可能性です。今後、対象者数、施設数、観察期間を広げ、詳しい分析を重ねる必要があります。

介護施設でフットケアを続けるために

介護施設へフットケアを取り入れるときは、爪切り技術だけでなく、ケア前の足の観察、実施してよい範囲、中止・受診の基準、衛生管理、記録、職種間の連携を共通の手順にすることが大切です。認知症のある方には、分かりやすい説明、本人の同意、表情や拒否のサインへの配慮も欠かせません。

足プロでは、介護職・看護職などを対象に、安全な爪切り、足の観察、足洗い、保湿、記録、医療連携を学ぶ講座を行っています。施設でフットケアを始めたい、職員の共通手順を作りたい、判断に迷う足について学びたい方は、講座案内をご覧ください。

足プロの講座案内を見る
講座のお申込みはこちら

発表情報・参考資料

本記事は、一般社団法人生きがいづくり研究所が保管する学会発表スライドと発表者ノートをもとに作成しました。詳細な査読論文としての公表状況は未確認です。個別の診断や治療については医療機関へご相談ください。